824 名前:[sage] 投稿日:2007/12/12(水) 18:14:34 id:ugiuoJGS0 (PC)
「あんたさ、去年のクリスマスは小鳥と過ごしたって本当? それで多分今年もって……」
「へぇ?」
事務所での仕事中、伊織は消え入りそうな声で尋ねてきた。
声だけじゃない。
なんというか、その姿はうさちゃんを抱いているんじゃなくて、うさちゃんに辛うじて捕まっているみたいに頼りない。
「小鳥さんと……ねぇ」
「ま、まさかねっ、あんたは私だけで手一杯だし、そそそんなことする暇ないわよねっ」
「自覚あったのかよ」
小鳥さんとクリスマス、ね。
言ったのは多分当の本人だろう、全く人が悪い。
せめて「きゃー伊織ちゃん萌えっ! ぴよちゃん大満足っ! ぴよぴよ〜♪」くらい言ってくれたらいいのに。
救急車呼ぶけど。
「まぁ、大いに誤解があるな、その話」
「そ、そうなの、よかっ、じゃなくて……なっさけない男ね〜、それくらいの甲斐性は見せなさいよっ」
先ほどまでとは打って変わって、高らかに嘲笑してきた。
まったく、これじゃ小鳥さんがからかいたくなるのも無理はない。
俺に先を越されるのがそんなに悔しいのか。

ちなみにこの話、嘘は言っていない。
うちの事務所にはクリスマスに恒例行事がある。
一人で寂しい社員達で騒ぐ、みんなで寂しい恒例行事だ。
「俺達は未だにその行事から卒業が出来ない者同士なんだよ」
「な、情けない話ね……」
うるさいな。
窓の外がイルミネーションでチカチカいってる部屋で、一人湯豆腐食ってるよりマシだ。
「まぁ、ちょうどいいや。パーティーみたいなもんだし、今年は伊織もどうだ? やよいとかみんなにも声掛けるよ」
「にひひっ、そうして頂戴♪ たまにはそういうのも面白そうだわ」
「ちょっと遅くなるかも知れないけど、責任持って送ってくよ。どうせいつもやるし」
「そ、そう。こんな美少女のガードマンなんだから、気合入れなさいよねっ」
んふふ、と満足げにうさちゃんを抱く伊織。
なんか嬉しそうにうさちゃんの耳を持ってピコピコ振っている。
けれどそれも一瞬で、あれ? と何かに気づいたように呟いた。
「ちょちょちょちょちょっと待って。……いつも?」
「あー、潰れた小鳥さん送ってくの俺の役目なんだよ。あの人結構飲むから」
下心がまるでないわけじゃない。
あの人、酔うと気前よくなるからな。
去年なんかお土産にお寿司奢らせちゃった。
「酔った小鳥さんは面白いぞ、『私は小鳥! 飛べるんです! Ican fly!』とか言っていきなりダッシュして転んだりさー」
適度な脚色は大事だ。
第一、本人も確信を持って否定は出来まい。
「よ、酔っ払いの相手ね。まぁそれなら……うん。それに今年は」
「あ、でも伊織には新堂さんもいるし、帰りの心配は大丈夫かな?」
「っっ!!」


それから数日間、伊織はことあるごとに「新堂も最近疲れたっていってたわ」とか新堂さんの忙しさをアピールしていた。
うーん、執事って大変なんだな。
あんまり頼るのは止めておこうかなと思った。