702 名前:SS[sage] 投稿日:2008/05/02(金) 06:43:48 id:ySKArBLbO (携帯)
「プロデューサー、これはなんですか?」
 通い妻と評されるほど、自宅も同然となった、或るマンションの七百六十五号室。
そのリビングで、千早は、この部屋の主を冷たく睨んでいた。
示したのは、テーブルの上に置かれた、アダルトDVDである。
「性欲の発散を補う為のメディアだが」
「概念の説明を求めてはいません!」
 プロデューサーが無表情のまま答えてくることが、千早の憤りを強めた。
 テーブルをばんばんと叩きながら、再び問う。
「なぜ、こんなものが、あなたの寝室にあるのですか!?」
「性欲の発散を補う為に視聴するからだが」
「なっ……!?」
 再び無表情で答えてくるプロデューサーに、千早は絶句した。
性欲というものがあるとは思えなかったのに、実は、こんなふしだらな物を所持し、
更に、それを当然のことのように言ってくるとは。
「どうしてですかっ!?」
「おれに性欲があるからだが」
「し、信じられません……! こんな、いやらしいっ……!」
「性欲がないというのは、それはそれで問題だと思う」
 確かに、性教育を受けて知識はあるものの、どうしても感情で納得できずに、強い口調で告げる。


703 名前:SS[sage] 投稿日:2008/05/02(金) 06:45:56 id:ySKArBLbO (携帯)
「わたしを愛すると誓ったあなたが、わたし以外の女に性の魅力を感じないでください!」
 これは嫉妬であると自覚していたが、譲ることはできない。
 プロデューサーが、漸く困惑した表情を浮かべて訊いてくる。
「それは、千早がなんらかの形で性欲の発散を補ってくれるということだろうか?」
「ばっ……!」
 プロデューサーの問いの意味を理解した瞬間、体が動いた。
「ばかああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 乾いた音がリビングに響いた。
「……ひっぱたかれる理由が分からない」
 壊れた人形のような体勢で殴り倒されているプロデューサーが言ってきた。
「ばかじゃないですか!? ばかですよね!?」
「再確認か。まあ、おちつけ。躰を重ねあうのは結婚するまで待つと決めている。
だが、今、なにもない状態で性欲を発散させるのは無理だ。この問題を解決する方法を考えなくてはならない」
「くっ……!」
 男というものがそういう存在であるなら、否定することはできない。
だが、解決する方法など全く思い浮かばず、千早は呻いた。
「ふむ。では、こうしよう」
 プロデューサーは立ち上がって千早を見つめ、続けてくる。
「おれと結婚した後の千早の、すばらしくいやらしい姿を想像して性欲を発散させる」
「くっああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 体を捻り、全ての体重を掛けた平手打ちが、プロデューサーを約二メートルほど叩き飛ばした。