610 名前:SS[sage] 投稿日:2008/07/28(月) 19:26:01 id:sJLM61cH0 (PC)
■子育て(娘・7歳)

「ねえ!けっこんする時、お父さんはお母さんになんて言ったの?」
今日、学校でともだちみんなとそんなはなしになった。わたしのお母さんはげいのうじんなので、
みんなききたがってたし、わたしもきいてみたくなった。

ばんごはんを作ってるとちゅうだったお母さんは、わたしのはなしをきいて、ちょっとこまった顔をした。
こまった顔と言っても、ことりさんがよっぱらっておしかけてきた時の顔でもないし、
しんゆうのはるかさんのぶゆうでんをはなすときのような顔でもない。
「……仕事部屋、来てみる?そこでなら教えてあげられると思うから」

わたしの家には、お母さんが歌のれんしゅうをするぼうおんしつというのがあって、
ふだんわたしはそこに入っちゃいけませんと言われてる。
ひみつきちかもしれないと思ってワクワクしたわたしは『行く!』と言っておかあさんについていった。

ひみつのおへやのなかには、学校のおんがくしつよりすごいステレオと、グランドピアノ。
べーとーべんとかのしゃしんをズラリとははってないけど、一人だけおんがくかっぽい人のしゃしんがあった。
しー・えー・あーる・える・しー・ぜっと……やっぱよめないから、今はいいや。

「お父さん……あの時はまだ、私のプロデューサーだった人だけどね。テレビとか、雑誌の記者さんにも
何度も聞かれたわ『プロポーズの言葉は?』とか『告白は、どちらから?』とか。
でも、お母さんは何も言わなかった。お父さんも、何も言わなかったの」

「それじゃあ、どうしてけっこんできたの?言わなきゃわからないんじゃないの?」
なにも言わずにけっこんなんて、ちょっとヘンだと思う。テレビとかみてると、おとこのひとが
びわとか買って、まっかになりながら『俺と、結婚してくださいっ!!』とか言うものじゃないの?
「お母さんの仕事って、何だか知ってるでしょ?」
「うん。歌手だよね!歌をうたうひと!!」
「そう。だから……わたしが本当に大事な何かをあの人に伝えようと思った時はね……」

おかあさんが、大きくいきをすいこんだとき、へやのなにかがかわった。
今までに見た、わらうお母さんでも、おこるお母さんでもない……わたしの知らない人が、いた。
いままで、テレビで見たときもCDをきいたときも……かなしい歌だと思ってた【あおいとり】
それが、やさしいうたに聞こえた。
ばんそうとか、何もなくても、お母さんの歌がせかいを作ってた。

……ううん、歌だけじゃない。しずかなうごきだけどみつめてしまうゆっくりとしたおどりとか、
わたしのほうを見る、とてもやさしくて……じぶんのおかあさんなのに、かわいいと思っちゃう目とか。
それで、わかっちゃった。お父さんは、この歌を聴いたんだ……

だって、感じるもの。歌詞とはぜんぜん別に
【ありがとう】【大すきです】【ずっといっしょにいてください】
ほかにも、いろんなことを、この歌がしゃべってるもん。
あれ?なんかわたし、おかしい?だって、お母さんは【あおいとり】をうたってるわけで、
その歌の歌詞カードには、そんなこと、ヒトコトだって書いてないんだよ?
でも、ぜったいにわかる。なんで?って言われるとわかんないけど……このうたは、そう言ってる!!

うたいおわったお母さんの顔は、やっぱりちょっとはずかしがったまんま。
なんかもう、ああっ!なんかもう……ぜんぶごちゃまぜにしてお母さん、すごい!!

611 名前:SS[sage] 投稿日:2008/07/28(月) 19:27:30 id:sJLM61cH0 (PC)
「コンサートホールの下見に来ててね、スタッフさんたちが誰もいない時を見計らって……
最高の音響下で、お父さんのためだけに歌ったの……すごく、ドキドキしたわ。
歌い終わってわたしが『受け止めて……くれますか?』って聞いたら、お父さんは……
泣きながら、わたしをぎゅって抱きしめてくれた。何も言わなくても、その涙と身体のあったかさで、
全部分かっちゃった。……次の日は、二人で社長に報告しに言ったわ。
嬉しさのあまり、二人ともろくに眠れなくて、ちょっと怒られちゃったけどね……ふふっ」

そう言ってわらうお母さんは、なんかすごく……かわいいとおもった。
お母さんは、わたしが生まれるまえはアイドルだったって、ともだちやそのお母さんたちが言ってた。
みんなのまえで歌をうたうおしごと、っていうのはおんなじなのに、歌手とアイドルって、なにかちがうのかな?
お母さんははずかしがってみせてくれないから、こんどお父さんにたのんで、見せてもらおう。
そして【アイドル】のお母さんが、わたしが今日かんじたみたいなものだったら……
わたしも、お母さんみたいになりたい!だって、すっごくすっごく……しあわせなきもちになれるんだもん!

「この話は、これでおしまい……テレビや雑誌の人には『プロポーズに関しては、特に何も言いませんでした』
って言ったけど、これも本当よ。わたしが気持ちを伝えるなら、言葉よりもいいものがあるって思っただけ。
お父さんは、わたしがデビューする前からわたしの歌を聴いてくれた人だから、絶対に解ってくれると思った。
……さあ、ごはん作るの、途中だったよね。手伝ってくれる?」

300万まいいじょうのCDをうった、でんせつのアイドルと言われても、しょうじきよくわからない。
キカイのそうさとかわたしよりダメダメだし、すぐにおこるし、みんなとおなじで、どこにでもいる
ふつうのお母さんだと思うけど……さっきの歌をきいたら、ちょっとかんじがかわった。
うちのおかあさんって、ほんとうにすごい人なんだ……

人をあんなきもちにできるんだったら……わたしもそうなりたい。
よくうちにあそびにくる、みどりいろのかみのけをしたおば……(ぶるぶるっ!?)おねえさんが、
『アイドル、やってみない?』って言ってくれたし、いいよね?
らいげつまでにだす【しょうらいのゆめ】っていう作文にかきたいことが、できた。
【お母さんみたいな歌手】じゃなくて【お母さんみたいなアイドル】
わたしがはっきりと、しょうらいなりたいものをかんがえたのは、今、この時だった……


>‎609個人的には【生涯現役】を貫くに一票。
※娘ありの妄想シリーズから、ベタいの第四弾『けっこんするとき、なんていったの?』をひとつ。
千早なら、やる事は一つしかない!と思ったら、いつもの半分の時間で書けた。
昨日の蒼い鳥ソロがどれくらい凄かったのかを妄想しながら、ライブに行った人にお疲れ様。
俺達の嫁は、輝いていたよね?