361 名前:名無したんはエロカワイイ[sage] 投稿日:2009/02/03(火) 00:40:21 id:Bj3biJqm0
■ライブ(武道館)ランクB

※お詫び

この度の武道館ライブにおきまして、アンコール時に発生したアクシデントにつきまして、
お客様方には大変お見苦しい場面をお見せしてしまい、まことに申し訳ございませんでした。
水瀬伊織本人は精神、肉体共に無事であり、ファンの皆様にご心配をおかけしました事を
重ねてお詫び申し上げます。
尚、事故に繋がる行動を起こされた方とは既に双方合意の下、話し合いにて解決しております。
本日ご来場の皆様方におきましては、来月に追加公演を予定しておりますので、宜しければ
本日以上のステージをご披露することで、お詫びの気持ちに変えさせていただければと思います。
どうかファンの皆様には、これまでと変わらぬご支援とご指導を賜りたく存じ上げます。

                           765プロ水瀬伊織・スタッフ一同

「……文書作成お疲れ様です小鳥さん。いや、マジで助かりました。今度晩飯ご馳走しますから。
しかし、なんでかなぁ……うちの伊織が、あれくらいで泣き出すとは……」

メジャー街道驀進中の伊織が、ライブ中に事故を起こした。……っていうか、起こされた。
それはライブの最後、アンコール中にファンサービスのために客席に下りて歌っていた時のこと。
心無いファンが、伊織のお尻を触ったんだ。録画用カメラにもバッチリ映ってたし、
周りにいたファンからの証言で、明らかに故意にやったことも分かる。
伊織のファンが全員そんな不届き者とは思わないが、数十万人もファンがいれば、
そういう輩も残念ながらゼロにはならないだろう。

だが、蹴りの一発もくれておしまいと思ったら、ライブ中に泣き出すんだもんなぁ……
まぁ、そのおかげで『いおりん可愛いよ!』とか『本当は純情な娘なんだ!』とかプラスの
イメージに繋がってるのはラッキーと言うべきか。当然中には『演技じゃねぇの?』という
人間もいるが、あれはどう見ても触ったファンが悪い。
俺的には当然許せないし、数発殴ってやりたいが……残念ながらそうはいかない。
アンコールは一曲のみでライブはあわただしく終了。その後事件の張本人には、うちの事務所まで
ご同行いただき『貴方のした行為は、れっきとした強制猥褻罪に相当します』という文句と共に
こってりと絞ってやろうと思っていたが、新堂さんと水瀬グループの黒服たちがその役を
買って出てくれた。はっきり言って、犯人にはこれっぽっちも同情しちゃいないが、
多分、一生もののトラウマになるだろうなぁ……
しかも、ネットで調べてみたらその時の動画と、犯人の顔が晒されてるし。
今の時代、こうして社会的に抹殺される可能性もあるんだよなぁ……それはそれで怖い世界だ。

とりあえず、強烈に脅しておいたので、二度としないだろうとは思う。
事務所的にもあまり事を大きくしたくは無いので、法律的には不起訴処分になるだろう。
この手の事故は保険も適用されるし、追加公演を行えば営業的ダメージはほぼ無しにできる。
最大の問題は……この後の伊織を、どうフォローするかなんだよな。

「事務的な処理は任せてもらっていいから……プロデューサーさんしか出来ないことをしてください」
小鳥さんにそう言われて、俺は伊織が休んでる仮眠室へ向かったわけだが……はてさて。
どう言っていいもんかなぁ……下手な慰めは逆効果だし。
「うえぇ……すっ、ぐすっ……うぅ……」

あれ?マジで泣いてる!?
何で?俺がどんなにπタッチしてもマジギレで蹴りまくるほど強かった伊織が?
萩原さんとかならまぁ、性格上泣くと思うけど、どうして伊織が?と思ってたら……

「うぅ……気持ち悪い、気持ち悪い、おぞましいっ……なにあの手つき、触り方っ……
何も出来なかったし、動けなかったし、メジャーアイドルが、この伊織ちゃんがっ……
何なのよもう!アイツに触られたのとぜんぜん違うじゃないのー!!
もうっ……何なのよこの気持ち……何なのよこの感覚はっ!ねぇ、うさちゃん……
なんで、アイツの手は不快じゃないの?なんで、アイツの触り方は……心が、ぎゅって……なるの?
教えて、うさちゃん……わたし、アイツの事…………」

362 名前:名無したんはエロカワイイ[sage] 投稿日:2009/02/03(火) 00:41:25 id:Bj3biJqm0
全部聞き終わる前に、俺はその場を離れた。これ以上聞いてはいけない気がしたから。
俺で十分に変態対策なんて慣れただろうと思ってたら……え?あの対応って、まさか俺だけ?
そして、俺はもう引き返せない地点まで来てしまってますか?
確かに触りまくったりセクハラの数々はしてきましたが、いわゆる恋人としてのABCとかは、
さすがにしてない訳なのですが……ホンモノの箱入りお嬢様にとっては、これも責任とるべき
行動なのでしょうか?いや別に責任取らないと言ってるわけじゃないぞ。むしろバッチコイな
事態とは思うが……πタッチ即、喧嘩キックの伊織が、まさかそんなんだとはお釈迦様でも思うまい。

とりあえず、伊織自身はいつものように振舞いたいだろうから、俺もつとめて努力はするが……
これからは、自覚するべきかもなぁ……伊織にさわる、と言う事がどんなに覚悟のいる事かを。
一応10分ほど置いて、俺は仮眠室の扉をノックした。

「入るぞ、伊織……とりあえず犯人は不起訴処分にはしといた。後で騒がれると困るからな。
……ま、訴えなくても顔も素性もネットでバラされたから、社会的に抹殺されるのは確定だ」
「にひひっ……そうよね♪ま、一生と引き換えにわたしのお尻を触るなんて、超がつく暴挙だけど、
その度胸に免じて許してあげなくも無いかな……どう?迫真の演技だったでしょ?」
「そ、そうだな……ホンモノの純情なお嬢様だった。ファンは全員そう思っただろうな。
もうこんな事は起こらないと思うけど……追加公演では気をつけてくれよ」
「もしそんな不届きモノがいたら、時計の無い地下室で死ぬまで飼うわ。周りとの関係を全部絶って、
ゆっくり精神を壊してやるんだから!焼き土下座なんて楽な真似はさせないわよ♪」

……冗談なのは分かるが、伊織の場合本気でやるかもしれんから勘弁してくれ。
「しかし、そうなると俺は100回くらいは殺されてるな。蹴られるだけで済んでるのはむしろ幸せか。
それとも……伊織は俺の事が好きだったりしてな」
「はァ!?何言ってんのこの無敵銀河最強変態が」

おおぅ、この視線の痛さ……うん、捨て身の軽口でなんとかいつもの伊織に戻せたか。良かった。
「じゃあ、撤収完了の報告が来たら上がりだからゆっくりしておけよ。俺は報告書作ってから
会場スタッフと電話で話すからさ……今日はお疲れさん。よく頑張ったな……」
すっかり暗くなった廊下を歩きながら俺は『年貢の納め時』という言葉を思い出していた。
軽い気持ちで触ってたのは認めるが……せめてこれ以上大事な女の子を悲しませたくない。
伊織が本気で望むなら……せめてそれに相応しい男になろう。そう思い直した……

■伊織VIEW

「俺の事が好きだったりしてな」
アイツが去り際に吐いた台詞が、まだ頭の中に残ってる。まったく、何馬鹿な事いってるんだか……
「ほんっっっと、馬鹿言ってるんだから……」
もう、アイツの足音も聞こえない……うさちゃんと二人きりの仮眠室で、わたしは呟いた。
「ほんと、馬鹿じゃないの?…………そんなの……」
うさちゃんを抱きしめる手は、自分でも分かるほどすごく熱かった。

「……そんなの、当たり前じゃないの」