304 名前:[sage] 投稿日:2007/10/16(火) 23:24:43 ID:l/q8tiuu0 (PC)
「千早ちゃん、なにか悩んでいるの?」
「・・・・・・これです」
小鳥の言葉に千早は観念したのかのように一枚の紙を出す。
「え〜と・・・・・・ああ、会社紹介用カレンダーね。千早ちゃんの担当は・・・・・・」
小鳥は頷きつつ社長の話を思い出す。確か、所属アイドルの紹介も兼ねていた販促品だ。
各アイドルの割り当てが決まっていたはずだが・・・・・・小鳥は千早の悩みにうすうす気付く。
「一月と一二月と・・・・・・七月、水着です。くっ」
小鳥の言葉に千早は頷く。その表情は沈痛だ。
「でも、千早ちゃん、一応アイドルなんだし」
「いえ、水着はいいんです。あまり良くありませんが納得しています。その決定事項をよく読んで下さい」
小鳥の言葉を断ち切るように千早が言う。確かに彼女が写真撮影を拒否したとは聞かない、最近は。
何だろうと思いつつも問題となっている七月に目を通す。      

七月 天海、如月、三浦 親しい友達と海に旅行に来た感じで。水着はビキニ&パレオ

これは・・・・・・さすがの小鳥も言葉を失う。会社紹介とは言え、ファンサービスは大事。
そこで人気上位の三人の水着姿を選んだのだろうが・・・・・・。千早を見ると案の定、自分の胸に手を当てている。
しかし、小鳥とてアイドル事務所で働いていれば、色々な知恵は付く。その一つを伝授することにした。
「千早ちゃん、悩んでいるのは・・・・・・」
「はい、想像通りにこの部分です。春香はともかく・・・・・・あずささんは。嫌いではありませんけど」
千早の言葉に小鳥も頷く。これだけは人間の好き嫌いではどうしようもない。
いや、気にしなければいいだけなのだろうけど・・・・・・気になる人がいるのだから仕方がないか、と思う。
「大丈夫よ。千早ちゃん。私、前に先輩からそう言う場合の対処法を聞いたから」
もっともその先輩は結婚して退職したのだが。千早が希望で目を輝かせ小鳥の顔に注目する。
「あのね、両方から可能な限り中央に寄せ集めて、ガムテープで固定するの。
 荒技で肌にあまり優しくないけど、短時間なら・・・・・・って、千早ちゃん、どうしたの?」
言葉の途中で千早が急に絶望の表情に変わった。小鳥は話すのを止め、質問してみる。
「・・・・・・寄せ集める物が・・・・・・ないんです。くっ」
千早の絞り出すような声に小鳥は思わず天を仰ぐ。元手がないのでは、どうしようもない。
「そうですね。どうしようもないですね」
「あ、そんなことはないから。大丈夫。必ず何とかするから」
思わず声に出ていたのか、それとも表情を読まれたか。千早が儚げな笑みで言うのに咄嗟に言葉を返す。
自前で用意できない以上は持ってくるしかない。その瞬間、小鳥の脳裏にある友人の顔が思い浮かんだ。
「千早ちゃん、私の友人に特殊メイクのスペシャリストがいるの。その人に頼んでみる」
男性が女性になる深夜ドラマで男性俳優に付ける偽胸を作成したと言っていた。
幸いにも千早の胸はフラットだ。この技術がそのまま応用できる。
「え、いいのですか?」
笑顔になった千早に小鳥も嬉しくなる。二人で手を取り合って、成功を確信する。
「千早、いるかな? あ、小鳥さんも。手を取り合って、何かいいことでも?」
そこに入ってきたプロデューサー。二人はちょっと驚いたが聞かれていたわけではないので挨拶を返す。
「たいしたことではありません。今までどちらに?」
「ああ、会社のカレンダーの件で打ち合わせ。千早の担当は七月から九月の月見に変わったから」
「「はい?」」
プロデューサの言葉に二人は間の抜けた声を返す。
「千早は『動』より『静』のイメージだと思うんだ。だから、浴衣でしっとりした感じにしようかな、と」
「そうですか。最初からそうして欲しかったです」
「そうね。千早ちゃんのイメージならそっちの方がいいし」
頷きながら言うプロデューサーに二人は虚ろな声を返す。さっきまでの悲壮な会話は何だったのだろう。
「と言うわけで衣装合わせは来週だからよろしく。じゃあ、俺は他の連中にも教えてくるから」
彼はそう言うと千早の返事を待たずに退室する。
「ま、まあ、良かったじゃない」
「音無さん」
とりあえずフォローする小鳥に千早は頷きながら、胸に手を当て、重大な決意を秘めた表情で話しかける。
「私、来年は自前の胸で勝負します」
「そ、そう頑張ってね。応援しているから」
彼女の決意に小鳥はありふれた返事を返す。他に言いようがない。
ただし、小鳥には予感めいた確信があった。きっと来年も同じ会話をするのだろう、と。

昼に食べられなかったコンビニ弁当を、一人で食べながら思いついた。
今回も虚しくなったが・・・・・・昼飯抜きだったので美味しく食べることが出来た。