80 名前:[sage] 投稿日:2007/11/08(木) 22:57:35 id:dTp8Exlr0 (PC)
「いやぁ、いい天気ですねぇ」
「いい天気でなかったら、こんなことできませんよ、プロデューサーさん」
気持ちよさそうに空を見る彼に小鳥は呆れ顔で言う。季節は晩秋。外でお弁当を食べるのはちょっと覚悟がいる季節だ。
「いやぁ、事務所だと落ち着きませんし」
「人気者ですからねぇ♪」
彼の言葉に小鳥は楽しそうに言うが本音は別だ。
もっとも本音を言えるなら、今頃は別の時間の過ごし方をしているだろう。
「勘弁して下さいよぉ。まあ、嫌われているよりは全然ありがたいですけど」
苦笑しながらも彼は嫌そうな顔はしない。それが小鳥の心を傷付けると知っているだろうか?
いや、こう考えるのは間違っているのは分かっている。
もしも非難するとしたら、今までに、そう彼女たちと知り合うよりも先に勇気を出せなかった自分にだろう。
「ご馳走様です。今日も美味しゅうございました」
「お粗末様です」
食べ終えた彼の弁当箱を受け取りつつ自分も空を見る。肌寒かった最近にしては珍しく過ごしやすい天気だ。
想い続けることを止めないことと諦めないことは大事だけど・・・・・・とても勇気の要ることだと小鳥は思う。
もっとも想いを実行に移すのはそれ以上に勇気が要るのだが。
「ふぁぁぁ。それにしてもいい天気です」
「ふふ、おねむですか?」
眠そうに目をこする彼に小鳥は気分を入れ替えて話しかける。
「睡眠時間は足りているはずなんですけど、不規則なのが悪いのかも」
「出退勤の時間がバラバラでしたね」
彼の言葉に小鳥は給与計算の時に見たタイムカードの数字を思い出す。
「今日は千早の収録が夕方から遅くまであったっけ。少し寝ておきますが・・・・・・」
「それでしたら・・・・・・」
彼が続きを言う前に小鳥は言葉を挟む。おそらく先に戻って構わないとか言うつもりだろう。
その言葉に素直に従うなら最初からこの場にいない。
「こちらへどうぞ。プロデューサーさん♪」
そう言ってからスカートを整える。クリーニングに出したばかりだから、変な匂いは付いていないはず。
「こちらって、膝枕ですか」
「そうで〜す。特別サービスですよ♪」
動揺する彼に小鳥は笑顔で話しかける。いや、困っている彼を見るのが楽しくて仕方がないのは本心だが。
「しかしですねぇ」
「ううううう、そうですね。私のような二十チョメチョメがこんなことしてもどん引きですよね」
躊躇する彼に小鳥は泣き崩れる。自分で年齢を言って、少し心の隙間風を感じたが。
「いや、そんな、嬉しいですよ。本当に」
「じゃ、遠慮なさらずにどうぞ♪」
彼の言葉に小鳥は心の隙間に応急処置を施し、笑顔で自分の膝を叩く。遠慮がちに膝に乗った彼の頭の重みが心地いい。
「き、緊張して眠気が飛んでいきそうです」
「もうしょうがないですね。お姉さんがサービスしてあげましょう」
情けなく言う彼に小鳥は苦笑しながら喉の調子を確認する。うん、悪くはない。
「小鳥さん、忘年会でも思いましたが本当に歌が上手ですね」
「本職の彼女たちには敵いませんけど」
子守歌を歌い始めた彼女に彼は本心から言う。
「いえ、本当ですよ。デビューしてみませんか? 俺がプロデュースしたいくらいですよ」
「私が事務を止めたら律子さんが倒れちゃいますよ。それに人前で歌うのは苦手ですから」
仕事モードに入りかけた彼を彼女は笑顔で、だが決然として押し止める。
「そうですかぁ。残念・・・・・・ふぁぁ」
少し残念そうにした彼だが子守歌と膝枕、陽気の三重奏には抗えなかったのか寝息を立て始めた。
「もう人前で歌うことに魅力を感じないんですよ、プロデューサーさん。私はあなただけに・・・・・・」
そこまで口に出してから小鳥は止める。彼が寝ている時に言うのは卑怯な気がしたから。
だが、やはり暢気な寝顔を見ていると一言言わずにいられない。だから、一言だけ言うことにした。
「これからの私の人生をプロデュースして下さいね、プロデューサーさん♪」

愛妻弁当の後輩を正面にコンビニ弁当を食べる。
この虚しさに勝つことは・・・・・・一生無理かもしれないと何処かで覚悟を決める今日この頃。