349 名前:[sage] 投稿日:2008/05/17(土) 22:50:15 id:IOMcWt3X0 (PC)
■ある日の風景(ランクB)

ランクBのアイドル……と言うと、結構な高級マンションに住める収入だと思う。
最近、セキュリティ万全の広いマンションに引っ越したあずさを見てるとそれがよく分かる。
Cランクに上がった時に『便利だから、月極で一部屋借りるか?』なんて冗談でアイツが言った事が、
まさか今、現実になるなんて思ってもいなかったけど……
そう。きっかけは、珍しく朝、家にいたパパが私の部屋に来た事だった。

「久しぶりだな……伊織。家族でありながらこんな台詞が出るのも情けない話だが」
「おはよう、パパ。いいじゃない?立派にお仕事してるし、病気ってわけでもないんだから。
久しぶりだし、一緒にごはん食べる?」
「いや、すぐに出るからそれには及ばん。それに今日は大事な話があってきた」

パパの雰囲気から、ただの世間話じゃないことは明らかね。
しかも、いつもの『もう十分だろう。そろそろアイドル活動なんて辞めたらどうだ』って軽さでもない。
そう……これは、パパの本気。お願いでも何でもない、一方的な宣告だ。
メジャーアイドルになっても、このパパの威圧感だけは慣れないわ……やっぱりパパも、一流の人間って事かしら。

「伊織……お前は本当に最近、よくやっている。大した娘だ。新堂から聞いているよ。アイドルだけでなく、
料理から洗濯までやるようになったと。しかも成績が下がった感じも無い」
「それが、パパの提示した条件だったしね。逆にこれくらい出来ないと、兄さん達に追いついた気がしないわ」
「もう、追いついているとも。昨日、高木社長と電話で話したんだが、驚いたよ。
アイドルとして頑張っているだけではない、人格的に一皮剥けたというべきかな……
わたしは、経営者として人を見る目には自信がある。お前は成長した。そして今までよりずっと活き活きとしている。
新堂からの報告でも、お前が毎日どんなに楽しそうにしているか……そして、どんなに周りを気遣う子に成長したか。
仮に、高木社長の提案を受け入れず、私の思うとおりにしていたらと思うと背筋が寒くなったよ。
すでにお前はこの国で、私や上の兄二人の知名度を遥かに越えた。水瀬グループを知らぬものはいても、
アイドルの水瀬伊織を知らぬ者のほうが少ない。伊織……ここまで来たなら、道を究めてみるか?」

へ?今……なんて言った?
アイドルなんて辞めろって口癖のように言ってた人が、私を褒めてる……

「今の家では仕事に不便だから、765プロに近いマンションを借りなさい。私が許可しよう。
ただし、セキュリティなどは万全の場所にする事。保険料などもこちらで持つ。
が、家賃と引越し費用、そっちで食べる食費などは、自分の力で何とかしなさい。
あと、私と新堂に合鍵を預ける事。そして週末は必ず実家で過ごす事……これが条件だ」

なに、これ……身体の中で血がすっごい速さで流れてる……気が昂ってるとか、そんな感じ?
特別オーディション合格とか、ランクアップとか……そんな喜びとも違う。
パパが、確かに言った……知名度は、私が一番だって……大した娘だ、って……

「では、私はそろそろ出掛けるよ。伊織……これからも、頑張りなさい。
そして……お前のプロデューサーとか言ったっけな。あの青年を今度、うちに呼びなさい。
高木社長も言ってたが、お前をここまでにした人間に……一度会って是非話したいし、礼も言いたいからな」

一応、話の内容は頭に入ってるけど……なんだろうこれ?身体が、動かない。
パパの背中を黙って見送り、新堂が出て行くと、やっとの事でベッドに倒れこんだ。
「ねぇ……うさちゃん。わたし……やったのよね?これで、夢……叶ったのよね?」
といっても、パパを越える収入を得た訳じゃないし、兄さん達を能力的に越えたとも思えない。
でも……ほとんど一方的だったパパが、娘ではあるけどわたしを対等の存在として話してた。

350 名前:[sage] 投稿日:2008/05/17(土) 22:51:15 id:IOMcWt3X0 (PC)
心の中は死ぬほど嬉しいんだけど、身体が付いてこない。もどかしくてベッドをゴロゴロとうさちゃんを抱いて転がる。
765プロに入った時は、ゴールだと思ってた位置に、わたしは辿り着いたんだ……
それなのに、不思議と達成感が無い。いや……もっと大きくて困難な目標が目の前にあるから、こうなってるんだ。
それが分かったら、手放しに喜べるわけないじゃない?

朝日が窓から差し込んで、うさちゃんを照らす……光の加減で、うさちゃんがおめでとうを言ってるような気がした。
次の目標は、正真正銘のトップ……Aランク。そしてもう一つ、Aランクよりも大切な……
初夏の日差しが眩しい、ある日の朝。身体はテンション上がりっぱなしなのに、私の心は不思議と落ち着いていた。


■おまけ

律子「……で、このクラスの事務用机だと新古品で8万円かな?でも、事務仕事に大事なのは、むしろ椅子よね」
小鳥「そうそう!今はただ豪華な革張りとかより、長時間PC作業をして疲れないのが一番よ!
   軽くて通気性が良くて、なおかつネトゲを長時間プレイして疲れない椅子は、健康面も考えて貴重よ♪」
律子「こほん……最後のあたりは聞かなかった事にします。それにしても新鮮ね、伊織がカタログ見ながら、
   値段とにらめっこしてるなんて、今後無いレア映像かも」
伊織「しょうがないでしょ!今月は色々物入りなのよ……まだ物件も決まってないし、引越しとか色々考えたら、
   あんまり家具とかにお金掛けられないし」
律子「親御さんのおかげで、候補は絞り込まれてるんでしょ?さっき見た物件でいいんじゃないの?」
伊織「あれはパス。お風呂が狭すぎる!身長180cmくらいの男がゆったり浸かれる広さじゃなきゃダメなの!!」
小鳥「……やけに具体的な数値ね」

伊織「へ……あ、そ、そのっ!違うわよ!!それくらい広くないと、この伊織ちゃんに相応しくないって事!」
律子「この【必要リスト】から、西川の高級羽毛布団は外していいんじゃない?自分用のベッド、あるんでしょ?」
伊織「そ、それも絶対いるの!やよいが泊まりに来た時とか、いい布団じゃないと疲れが取れないでしょ!」
小鳥「冷蔵庫も、一人で住むには大きすぎない?」
伊織「う……それはっ……そう、新堂やパパも来るかもしれないし、数人に料理を作るなら必要なの!」

小鳥「はぁ……あずささんも伊織ちゃんも、着々と愛の巣作りを進めてるのね……羨ましいなぁ……」
律子「あ、あの……小鳥さん。良かったら、知り合いの番組プロデューサーから合コンの企画出てるけど、行きます?」
社長「律子君、悪い事は言わんから止めておきたまえ。男性陣全員が潰れて自信を喪失する事になるぞ……」